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「本当?」

手塚さんは、郷里に帰っても、私のとこの二階の室は、やはり借りておいて、荷物はそっくり置いてゆくとのこと。いつ戻ってくるか分らないと言いながら、予定通りに半年ばかりで戻ってくるつもりなのだろう。そしてその間、私の心を繋ぎとめておきたいのだ。女を引きつけるには、好意にせよ、敵意にせよ、とにかく何等かの関心をこちらに持たせることが肝要で、無関心の状態に置いてはいけないと、何かに書いてあった。愛情でなくば、むしろ憎悪を、女に懐かせることが肝要だと。手塚さんの言葉は、そのどちらかをどうぞ、というような調子だった。姉さんには時折縁談があり、不在中にどんなことになるか分らないものだから、万一の場合のため、私の心を惹きつけておきたいのだ。いつも独りでは淋しいのだ。戦争のために心情は荒れてしまっておるし、工場に勤めて製図ばかりやり、生活に潤いがないからだろう。

大里そんなことはないさ。学者は、文章のための文章なんか、書かん方がいいんだ。

そして今、手塚さんは、なんということを私に言ったか。私の方を愛していたと。おう、私の方をだって。そんなことがどうして言えるのだろう。そして、私の愛情を求めるつもりではないと言いながら、私の手を両手に握りしめた。汚らわしい。そして、分りますね、分ってくれますねだと。いったい、何を分って貰いたいのだろう。然し、私にも少し理解しかけたことがある。

夫人かとみれば令嬢のごときところもあり、令嬢かとみれば夫人らしきところもあり……というのが、今の花嫁である。

大里わたしに?どれ……。

早見ある習癖の現はれです。半生、文章に凝るといつたような……。

久保田は花子を紹介した。ロダンは花子の小さい、締まつた体を、不恰好に結つた高島田の巓から、白足袋に千代田草履を穿いた足の尖まで、一目に領略するような見方をして、小さい巌畳な手を握つた。

法則に固有な一般化は一つの抽象化ではあるであろう。実在そのものを模写していない以上法則は抽象化が産んだものではあろう。併し抽象化必ずしもリッケルトの意味する一般化――Generalisation――ではない、とフリッシュアイゼン・ケーラーは考える。種概念から類概念への上昇がこのような一般化の意味であるが、このような種類の一般化が自然科学全体又はその代表的なるものを支配しているのではない。恐らく生物学であるならば(あまり代表的ではないこの自然科学であるならば)、この種類の一般化がそれに特有であるかも知れない。併し無論生物学の概念構成が例えば物理学の(代表的なるこの自然科学の)夫ではない。そしてこの物理学に於てこそ初めて法則の概念がその本来の面目を現わす。そうすれば法則の一般性はGeneralisierungであることは出来ない。分析――Isolierung――こそ夫である*。――フリッシュアイゼン・ケーラーはそう区別する。

津丸そこはひとつ、年末に年賀状をお書きになるようなつもりで……。

勿論、アカデミイはアカデミイだけの役割を果せばよいのである。言ひ換へれば、国家の文化的基礎を築き、その水準を常にある程度まで高めて行くといふ機能は、アカデミズム本来の使命である。あらゆる文化の先駆的傾向は、その水準の上にはじめて活溌な動きを見せるものであることは、例を何れの部門に取つても云へることである。

なお種々なる事情は、一方に征服者をして諸種の譲歩をなさしめるとともに、また一方に被征服者をして空虚な誇りとおよびあきらめとに陥らしめる。そして両階級の間に、漸次に皮相的妥協を進めて行く。

ところが、二人はもともと万年一等兵であった。その証拠には浪花節が上手でも、逆立ちが下手でも、とにかく兵隊としての要領の拙さでは逕庭がなかった。ことに命令されたことをテキパキ実行できないというへまさ加減では、この二人に並ぶ者はない。おまけに兵隊にあるまじいことには、兵隊につきものの厚かましさが欠けていた。
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