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例へば明の永樂帝が建文帝の位を奪つた所謂靖難の役に就いては、明の實録は建文一朝を認めないで、前代の洪武の年號を延ばして書いて居つて、これを革除と稱して居る。然るに永樂帝の曾孫か玄孫の代くらいになつて、建文帝が靖難の役に死なゝいで僧侶になつて逃れたのが現れて來た。それを終りには明の宮中に呼びかへして僧體の儘で一生を安らかに送らしめたといふ話があつて、當時の信用すべき歴史家も其事を明かに認めている。清朝で明史を作つた時は其説を採らないで、建文帝は靖難の役に死んだものと極めたのであるが、明代では一般にさうは信じなかつた。
「それは誰ですか。フランス人ですか。」
加来いけない。それぢやまた、君は、覚悟のし直しをしなけれやならんよ。もういい、そんな気安めは言はなくつても、わたしは、この通り、平静なんだ。すこし喋りすぎるかもしれないけれど、これは、わたしの生命への唯一の執着だ。そして、自分がまだ生きているといふ、自分に対する保証にすぎないんだ。膝が冷たい。
お才が越後から來たてに、私の地方で田にしを食ふのを見て、さもさも穢い物をくふかのやうに目を剥いていたが、越後あたりでは喰べないのであらうか。外ではどうあらう。上總の片貝へ行つた時、あの邊では目籠をかかへて拾つていたから、千葉縣あたりは食ふらしい。
哲郎は戸の閉つた薔麦屋の[#「薔麦屋の」はママ]前へ来ていた。微に優しい声で笑ふのが聞えた。彼はその方へと顔をやつた。若い女が電柱に身を隠すやうにして笑つていた。それは長い襟巻で口元を覆ふやうにした彼の女であつた。
「どうぞ、御ひいきに――」
第一の批難は、与えられた事実(実在)と科学的概念構成との相互に独立な対立に基く立場に向けられると云った。事実と概念構成とが内容と形式として、又より一般的に云うならは客観と主観として、対立する処の、カント的立場に対する批難でそれはあった。このカント的・認識論的(又それは論理的と呼ばれる)立場が一応は必然であることを吾々は前に見ておいたが、今やこの立場が要するに一応のものに過ぎず終局的なものではないことが、この批難によって指摘されたわけである。故に第一の批難を吟味した結果は、認識論的立場――形式と内容・主観と客観の対立――を棄てることを吾々に要求する。科学的概念構成と事実・実在との対立は、もはや相互に独立と考えられる形式と内容・主観と客観とのそれであることを許されず、何か他の意味での対立でなければならぬことが要求される。そして実際、両者の対立は方法と対象との対立であったのである。処が方法と対象との対立は認識論的な主客の対立ではなくして存在論的――そして弁証法的――対立でなければならないことが、吾々の抑々の出発点であったから、それであるから認識論的立場を棄てねばならない今の吾々は、認識論的立場を去って恰も存在論的立場に移ることを要求されているのである。科学的概念構成と実在との関係は、もし両者が夫々方法と対象として理解されるならば、始めから存在論的立場――リッケルト自身の認識論的・論理的立場ではなく――に立って取り扱われるべきであったのである。
ロダンは何の過渡もなしに、久保田にかう云つた。「マドモアセユはわたしの職業を知つているでせう。着物を脱ぐでせうか。」
*現象という概念が、文字を同じくする他の諸概念とどう異るかを、立ち入って述べるまでもないであろう。ハイデッガーは之を分類している(M.Heidegger-SeinundZeit-S.28ff)。
「十五分か二十分で済むさうです」と、花子に言つて置いて、久保田は葉巻に火を附けて、教へられた戸の奥に隠れた。
「杉山節子……?そうだ、たしかそんな名前だった。大阪放管?じゃ、大阪からの放送だ」
加来四紋とネラ子は?
早見さあ、おそれと言はれるのはどういふ意味か、医者としては、事実を正確に見ることと、希望をあくまでも捨てないといふことと、この二つの道を同時に歩く以外にないのですが……。
加来こつちの手もこの通りだ。
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