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河井醉茗の五十年の祝をした時、私は上野から精養軒へ眞直に行つたので、誰もまだ來ていなかつた。上つたんだか、下りたんだか忘れたが、左に庭を見て長い廊下を行くあたりで、向うから山田邦子さんが歩いて來るのに會つた。いきなり手を出して私をいたはるやうにして、よく出て入らしたと喜んでくれた。十六年ぶりの邂逅である。足が惡いと聞いていたが、歩くところを見ると疾い。瞳はむかしながらに澄んでたけれど、掌は私の方が小さいかして兩のこぶしの中へ包まれたのが剛い感じだつた。

私のとこでは本讀みに來た少年達の組織した會があつて、年に一度づつ集つては小貝川の野地へ木をして呉れる。した年に冠水せぬ限り根ついてぐん/\延びて行く。年々したのが今は大きくなつて、欝然たる山林になるのも遠い事ではない。ポプラは二十年もすると六尺まはりになる。尤もあか土では根ついても直ぐ枯れる。水には強いが風當りが惡くては鐵砲虫がつく。

*方法に対するものとして人々は体系とか主題とか資料とかを挙げるかも知れない。おのずから明らかとなる理由によって私は之からは出発しない。――体系に就いては後を見よ。

私は方法概念に関わる最後の問題を取り上げる機会に来た。学問の方法が学問の社会的規定に対する自己批判である場合を向に述べた。処が学問のこの社会性――実践性――が、やがて学問全体がそれ自身として社会に対して持つ関係を要求して来るのは自然であるであろう。意味はこうである。今迄の処では学問が内部に於て持つ社会的規定を取り扱った、今やそれはおのずから、学問がその外部に於て持つ社会的規定を取り扱わねばならなくなって来るであろう、そして外部に於て持つ社会的規定、それが学問が社会に対する関係を指す。理由はこうである。学問の学問性は今其の批判的方法にあると考えられた。処で人々の実践生活――それが社会である――は批判的であることを最も屡々理想とするであろう。吾々が生活意識を明白にするとは恐らく之を指すのであろうから。そうすれば生活の理想は充分に批判的であることになるから、即ち批判的方法による生活であることになるから、恰もこの批判的方法である学問性がその在り方(Wesenheit)である処の学問は、生活の理想でなければならないと考えられるのは、至極自然であるであろう。そうすれば学問それ自身が生活の典型的な形態を云い表わすものでなければならなくなる。茲に学問は生活の方法となる。もはや学問が学問性として持つ処の方法――批判――であるには止らずして、学問それ自身が生活に対して、社会・実践的世界に対して、その方法とならねばならない。学問は一つの優れたる生活法となる。学問の方法という概念は今や単に学問のではなくして、一般に、生活の方法という概念となる。かくて学問に関する方法概念は生活の方法の概念としてその最後の位置に就くのである*。さてこのような事情は、もし学問性が体系であって方法でなかったとしたならば、起こり得なかったであろう。茲に方法概念の実践的優位が見紛うことを許さぬように顕われる。

例へば、肉体各部の機能と精神のさまざまなはたらきとを明確に結びつける精神生理学なるものは成り立たないか?そして、からだのある部分の発育、乃至老衰の徴候から、その人間の知能や道義心の程度を推しはかることができたとしたら、これはなかなか画期的な発見にちがひない。

細木わりによく話されます。心臓がもう極度に弱つている筈なのに、どうしてあんなに呼吸がつづくかと思うくらいです。

と、その髪の形に無言の悦びを結びつけてふいちょうしてあるいたのであるが、今の女性は社会の状態につれて、そのようなことを愉しんでいるひまがなくなったのででもあろうか、つとめてそういったことを示さぬようになって来た。

樗牛全集の中に、ブランデスの何かの本から抜いた、次の文がある。

大里は、あたりを見廻しながら、にやりとする。

夜が明けると、赤井はミネ子と二人で、大阪中を歩きまわった。

土曜日には向島へ往く。日曜日を一日遊んで西の邸へ歸る。その頃は東橋の下の渡を渡るのであつた。父から一週間の小遣に一朱貰ふのが例になつている。一朱では諸君に分かるまい。六錢二厘五毛である。それを使ふのに、渡錢丈け殘して置かねばならないのであつた。渡錢は文久一つ即ち一厘五毛であつた。ところが或時日曜日の朝向島へ往くのに、その文久が無かつた。そこで大いに困つたが、渡場の傍に材木問屋があつたのを見て、その帳場の爺さんに、渡錢にするのだが、文久を一つ明日まで貸してくれまいかと云つた。爺さんが、えゝ、朝つぱらからいま/\しいと云ひながら、兎に角文久は出してくれた。私は言草が癪に障らぬではなかつたが、必要に迫られて借りた。翌日それを持つて往つて返すと、爺さんはいらないと云つた。私は腹が立つたから、文久を爺さんの顏に投げ附けて、一しよう懸命駈けて逃げた。

冬菜ほんとに、そばからは、苦痛らしい様子は見えませんものねえ。なんだか、それほど悪いのかしらと思うくらいですわ。でも、お食事は、頼むやうにして、口の中へ押しこんでやらなければ、いただきませんの。あ、細木さん、ちよつとお話があるんですつて……。なにか、言ひ残したことがあるつて申してますわ。おそれ入りますけど、もう一度、よく聴いてやつてくださらない?

しかし時々あなたは、すばらしく私のあなたにおなりになさいますのね、御自分で私の着物を見立てに銀座へ行らしつたり、おいしいものを喰べに連れていらしつたり、観音経のお講義をして、私の難問を解いて下さつたり、気に入つたポーズをさせてスケッチをとつたり、さういふことはまた得て世間に誇大に拡がり安いもので、いかにあなたの愛物でわたくしがあるかを云々し、まゝそこまでは宜いとして、それがために、私はその境遇にあまへて私の芸術にあそび気まゝにお金ばなれの好い暮らしをして居ると非難がましくいふひとがあるさうです。

この「若返り法」について、先づわが畏友A博士はどう考へるか、その解答はもう耳に聞えるやうである。曰く、「うむ、まあ、それでも、やらないよりはましだらう」
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