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冬菜あなた……。

方法は吾々が対象に通達する通路であったから、通達の機関として方法の省察がなければならない。そしてかかる機関としての形式論理学の一部分――研究法と統制法――は事実、方法論の名を有っている。私が「或る意味に於ける論理学」と呼んだのは併し、之を指すのではない。それでは何を指すか。

科学論の動機に就いて今まで与えられた分析の結果は次の二つである。第一、学問の分類の概念から科学論――方法論――概念への推移。第二、科学論はその理論の論理的秩序に於ては、論理学・認識論として意識されるということ。前者は必ずしも其と意識されてはいない処の、従って理論の秩序に於て必ずしも論理的前提ではない処の、動機である。後者は之に反して、理論に於て論理的予想として意識されたる、動機であるであろう(蓋し動機の多くのものは――それが論理的根柢でない限り――論理的構造に於ては意識されないという特徴を有っている。動機と論理的予想とは相蔽う概念ではない)。――科学論は之までの処、一つの動機――科学論は歴史的には学問の分類という課題から動機づけられた――と、一つの論理的予想――認識論――(之も亦一つの動機であるが)とから成立するものとして理解された*。動機の分解を今はさし当り茲に止めておこう。

冬菜わかるところと、わからないところと、ありましたわ。でも、結論は……。

「このトランクには、音楽会に要るイブニングや楽譜がはいってましたの。これから、音楽会へも出られますわ。ほんとうに、ありがとうございました。ほんとにお世話ばかし掛けて……」

*伝説と理由とを近づける時、神話性と学問性とは見分け難くなる。そして実際そのような場合を吾々はプラトンに於て、特に『ティマイオス』に於て、有つ。蓋し様々な意味に於て、神話は学問と密接な関係にあるであろう。

「私、京都ですの。沼津の田舎へ疎開していたのですけど、これから……」

「下宿でもしているんですか、」

「私は幸福な新妻でございます」

かうして、早見博士は、病人に会釈して、座を起ち、細君の冬菜に案内されて別室にはいる。

向ふから鳥打を冠りインバを着た男がやつて来た。哲郎はこの男は刑事かなにかではないかと思つた。彼はさうして今女に話しかけやうとしたことを思ひ出して、もしあんな時に追つかけでもしていやうものなら、ひどい目に逢はされたかも判らないと思つた。彼はすこし気が咎めたが、しかし向ふの方に幸福が待つているような気がするので、引つかへさうとする気もしなければ、其処のカフエーへ入らうとする気も起らなかつた。

お約束のMademoiselleHanakoを連れて来たと云つた。

冬菜あんまりお手をお出しになつてるからよ。

とにかく、まあ、なんといふ込み入つた、いろんなことを考へさせる作品だらう。考へ出せば切りがありあしない。それも小林が書いたことそのものより、その書いたことからあいつが何を書かうとしたかを引き出して行けば行くほど面白くなるのぢやないかしら。さうなると作品の出來不出來なんぞは問題ぢやなくなつてくる。こつちですこし本氣になつてそれに向つていると、作者自身が大へんなものにぶつかつてしどろもどろになつている樣子がはつきり浮んでくるが、しかしそれは作者の方ばかりぢやなしに、こつちまでひどくしどろもどろにさせずには措かないような、底の知れない、氣味の惡い作品だ。
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